タクシージャパン 掲載コラム

共同配車の未来を拓く遠隔点呼

共同配車へのニーズは高まっている

 先月号のこのコラムで、静岡市における共同配車の第一弾として企図した、静岡平和タクシーと駿河交通の2社による共同相互配車の試みが、残念ながら延期を余儀なくされたことを報告させてもらった。
 しかし、その後の駿河交通での電話受付や配車の体制立て直しの試みの中で、より地方の小規模タクシー会社間における配車の共同化やDX化の必要性を強く、強く感じるようになった。そのため、共同化の受皿となる静岡TaaS配車センターを、静岡市の共通チケットセンターである静岡市タクシー事業協同組合が入居する建物の2階に設置することにした。3月中旬から麻雀荘であったその場所を、タクシーの配車センターとしての機能を果たせるようにするための大規模改造に入った。4月末には完成する予定である。
 共同配車に参加するタクシー会社が最終確定しているわけではないが、駿河交通をはじめとして静岡市内の少なくない会社が共同配車化の必要性を強く感じており、その実現を希望しているものの、地方の小規模タクシー会社にとって共同化だけでは解決し得ない課題もあり、それがネックになって共同化に参加できないという事情がある。

夜間の帰庫点呼が課題

地方の小規模タクシー会社では、電話受付を行う配車係が、運行管理者または補助者として帰庫点呼業務を兼務している場合が多い。そのため、仮に共同配車化しても夜間の点呼業務要員が別に必要となることから、コスト削減にならず、逆にコストアップになってしまう。
 昼間の出庫点呼では比較的スタッフが揃いやすのでまだしも、夜間遅くの帰庫点呼は配車室のスタッフに頼らざるを得ない。この問題がクリアされないと、共同配車化にも二の足を踏んでしまうことになる。コロナ禍で夜間のタクシー需要が激減し、乗務員も苦しんでいるが、タクシー事業者もこの夜間の間接コスト負担に苦しんでいる状況だ。
 この共同配車化と点呼のジレンマを解決する道は無いのかと、この間、考えあぐねて来た。

遠隔点呼による解決の可能性

 そうした中で、4月1日から遠隔点呼という仕組みの受付が始まることになった。
 運行管理高度化委員会が打ち出したこの新たな仕組みは、従来からのIT点呼とは違い、優良事業所という制約が取れ、ある意味どの事業者でも申請ができ、条件さえ整えば遠隔点呼ができるようになった。営業所間の点呼、営業所と車庫間の点呼、車庫間の点呼など、かなりフレシキブルに相互の点呼が可能になり、運行管理者や補助者の省力化、コストダウンが可能になる。
 複数の営業所を抱える大手事業者にとっては、遠隔点呼制度の拡充は大いなる朗報だろう。その一方で、駿河交通のような地方の小規模で共同配車を目指すタクシー事業者にとっても、共同化と点呼業務とのジレンマを解決する有力な手段になるのではないかと考えている。
 つまり、共同化を目指す各社が共同配車センターに営業所を開設し、自らの本社営業所との間で遠隔点呼を実現するという仕組みである。もちろん営業所であるからには最低5台の車両を配置せねばならず、その用地を必要とする。しかし、一方で現在の本社営業所が配車センターから2キロ以内の距離にあれば、その配車センターの営業所の車庫として本社営業所の一部を登録できるはずであるから、大きな投資なしに(遠隔点呼の機器は必要となるが)営業所間点呼を実現することが出来るはずだ。そして配車センターのスタッフがタクシー事業者の補助者として雇用契約を結んで選任されていれば、配車業務と点呼業務を兼ねることができ、かのジレンマを乗り越えることができるのではないか。残念ながら、私が関与している駿河交通は新設される静岡TaaS共同配車センターとは2キロ以上離れているので、新たに駐車場を借りての営業所の開設が必要だが、その必要の無い事業者も複数ある。
 私としては取り敢えず、この遠隔点呼を活用した共同配車の仕組みがどこまで実現するのか、どのような課題があるのか、を確認するためにも先行して駿河交通で静岡TaaS配車センターがある沓谷に営業所開設を申請するよう駿河交通の経営者に要請したところだ。
 新営業所の開設が5月末までに認められれば、7月1日から遠隔点呼を実施できる可能性がある。そのためにも先行して、東海電子の協力の下で遠隔点呼の仕組みを駿河交通に試験的に導入し、どのような課題があるのかを検証(実際は通常の対面点呼)しようと考えている。解決すべき課題は数多くあると思うが、そもそも遠隔点呼はデジタル点呼でもあり、それにふさわしい勤務体制、管理体制が必要とされる。静岡市内の実情に合わせたフレックス制の勤務体制なども、システムオリジンの社会保険労務士資格を持つエンジニアと検討して行きたい。

静岡TaaS曼荼羅

共同配車化や遠隔点呼などによるコストダウンは確かに大事で、事業者にとって切実な課題だが、やはり根本はタクシー事業そのものの生産性を上げていく仕組みを作ることが根本で、逆に生産性が低いことが乗務員不足や最賃抵触、労働時間超過などの問題の原因である。
 特に地方のタクシーの生産性の低さを克服するためには、ひとつの方法ではなく様々な打ち手の相乗的な組み合わせが必要となる。そのトータル図(静岡TaaS提供サービス一覧)を、静岡TaaS曼荼羅としてなぞらえてみた。道は遠いが、この曼荼羅の世界を着実に実現して行きたいと思う。
(2022年3月23日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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