タクシージャパン 掲載コラム

時代と体験の重さ

第19回チームネクストセミナー合宿in沖縄

チームネクストの19回目のセミナー合宿を1月22、23の両日、定時総会も含め、沖縄県那覇市の「パシフィック・ホテル」で開いた。
 
開催に当たっては沖縄県タクシー協会の手厚いご協力をいただき、沖縄県タクシー協会の津波古事務局長からは「沖縄県のタクシー業界のこれまでと現況」、そして協会会長の東江沖東交通グループ代表からは「沖縄の地域ニーズへの対応とこれからの戦略」というテーマで沖縄のタクシー業界の迅速で団結した取り組み、また宮古支部長の下地副会長、八重山支部長の伊良皆副会長から「宮古・八重山の白タク状況と対策」というテーマで長年に渡って緊迫していた中国人による白タク問題が報告された。
 
詳細は本紙「タクシージャパン」の巻頭特集のほか、システムオリジンの広報担当が取材をしていたので、是非そちらの方でご覧いただけたらと思う。
 
また二日目は、沖東交通グループがいち早く採用したベトナムからの整備士技能研修生3人にインタビューする機会をいただいた。ベトナムでは、現地日本企業の評価が高いようで、日本での技能研修を経て、ベトナムで日本企業に就職することを目指しているようだった。評判通り、ベトナム人研修生は実直で勤勉のようで、整備士の分野でも人手不足に悩む業界の助けになるのではないだろうか?
 
さらに沖東交通グループの企業内保育所「オレンジキッズランド」を見学させていただいた。内閣府による補助事業を活用した大規模(定員30名)な保育施設で、沖東グループが採用するハローキティのキャラクターもフル活用され、グループ全体のイメージアップにもつながっているようだった。

白タクの現場へ…

今回の沖縄でのセミナー合宿の企画のひとつとして、現地の白タク問題に関する在日中国人ドライバーや中国人観光客への直接のヒアリングを目指し、中国人の方に通訳をお願いし、首里城および嘉手納基地近くの美浜アメリカンビレッジで聞き取り調査に挑戦したが、結果として成果を得ることができなかった。時期と場所と時間についてもう少し事前の調査と準備が必要だったと反省している。

「ナツコ」沖縄密貿易の女王

準備と言えば、今回の「セミナー合宿イン沖縄」の実施にあたって、チームネクスト事務局の野田タクシーアシスト常務から、参加者に事前に読んでもらったらどうでしょうかと推奨された本がある。文春文庫の『ナツコ沖縄密貿易の女王』(奥野修司著)で、残念ながら私は沖縄訪問時までに半分も読むことができず、この本についてあれこれ言う資格はないのだが、それでも敗戦後の一時期、沖縄では「密貿易」という「自由貿易」の特異な時代があったことの一端を知ることができた。そして何よりも「沖縄戦」も含め、はるか琉球王国の時代から続く「琉球の世界」が厳然として存在するのだという実感をこの密貿易の女王の波乱の人生を垣間見ることによって、改めて感じさせられた。
 
近年、尖閣問題や中国人民解放軍の一部の高官による、「琉球は中国のものだ」という発言に対し、単純にけしからんという感情を抱いている私だが、沖縄の人、いやむしろ琉球の人と言った方が良いと思うが、もう少し違った、複雑な感情を抱いているように思える。
 
もちろん琉球王朝が時の中国王朝に冊封していたとはいえ、植民地ではないし、中国に帰属を望む人が多いとは思えない。しかし、江戸時代の薩摩藩との関係では1609年の琉球侵攻があり、また明治政府の「琉球処分」に歴史的な不信感を今も抱いている人もいるとのこと。
 
今の辺野古の問題も含め、「ヤマトンチュ」としての私には感覚のレベルで実感できないことが多い。こうした歴史的立場、経験の齟齬からくる「それぞれの真実」の分裂と断絶は非常につらいものがある。
この絡み合った糸をどのように解いていったらよいのか私には見当がつかないが、しかし、過去の自分の陥った思考と経験からの教訓をいくつか挙げることはできそうである。

善と悪、支配と被支配の二分法

その昔、私は、支配階級は悪、被支配階級は善という単純な図式で社会を理解し、被支配階級が支配階級を打ち倒すということが社会の進歩だと思っていた(典型的な階級闘争史観)。権力者は悪で、それに抵抗する者が善、金持ちは悪で、貧乏人は善、差別する側が悪で、非差別者は善、そうした単純な二元論とロマンチシズムに浸っていた。
 
確かに、それは事実と言える面もあるとは思うが、しかし、あまりにも単純でステレオタイプ化されていた。現実はもっと多様で、複雑で、二元的に割り切れるものではない。場面によって善が悪に転化し、また悪とレッテルが張られたものが実はもっとも人間的なものであったりもする。立場と経験は人間のアイデンティのベースではあるが、それに固執し、広い視野を欠くと、結果的に自分自身と世界を傷つけることになる。
 
現在のテロなどの宗教的な争いは、正義の名において、悪をこらしめる聖戦として行われている。そしてまた、その思いを支える経験、体験(家族が殺された、侵略された)が実際にあり、確信を持って実行される。
 
一神教の持つ正義や裁きは、それを信ずるものに強力なエネルギーをもたらすかもしれないが、しかし、本当の社会的安定は、東洋的な寛容の世界にあるのではないかと思う。日本の精神的な支柱は八百万の神を自然と祖先に見出す宗教的な寛容さにあり、徹底した自己修養を目指す仏教との融合を聖徳太子の時代に成し遂げ、「和」と「利他」の精神的土壌を耕してきたこの営為の向こうに「次の世界」が生まれてくるのではないかと私は思う。
 
とにかく、どんなことに対しても、レッテルを張ることによる思考停止だけは避けたいと思う。「右翼」だとか「左翼」だとか、「宗教」「人種」「歴史」「階級」でレッテルを張るのではなく、可能な限り「その人にとっての真実」に耳を傾け、しかし一方でその「真実」に無条件に拝跪するのではなく、視点を上げ、視野を広げ、かつ「時間のリトマス試験紙」に耐えうる評価と判断を心がけねばならないと思う。
 「ナツコの世界」のみならず沖縄がもつ激烈で異質な経験に対し、真正面から正対し、しかし、たじろがず、その多様な世界をまずはしっかり凝視しなければならないと、今回の沖縄へのささやかな旅で思った次第…。
 
何か話がとんでもない方に飛んでしまった、今回のコラムとなった。
(2019年1月24日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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