静岡TaaSグループは何処へ行くのか?
1.市内共同配車アプリ「よぶらー」開始に寄せて
最近、静岡市内で有力タクシー会社3社による共同配車アプリ「よぶらー」の運用が開始された。このニュースを聞いたとき、私の心には二つの思いが交錯した。
一つは、静岡TaaSの原点である「共同配車を通じた地方タクシー事業の生産性向上」を目指す仲間やグループが新たに現れたことへの素直な嬉しさである。そしてもう一つは、同じコンセプトや理念を持ちながらも、静岡TaaSという枠組みの中で一緒に歩むことができなかったことへの寂しさと反省である。
静岡TaaSは、地域全体のタクシー事業の生産性を引き上げ、「地域全体最適配車プラットフォーム」による効率配車と、タクシーの需要が落ち込む時間帯の「新たな需要創造」を目指し、2021年5月に設立された。
私たちは共同配車の前段階として、まずは赤字化していた各社の配車センター業務を受託・集約する足場固めからスタート。2022年6月に受託を開始し、現在では静岡市内の3社の全面受託、および3社のサテライト配車基地局の提供を行うまでになっている。
2.挑戦と挫折―「地域全体最適」の壁
私たち静岡TaaSは、構想の実現に向けて試行錯誤の中で挑んできた。2022年7月からは1年間に渡り、地域限定のタクシーのサブスクリプションモデルである定額タクシー乗り放題サービス「タク放題」を実施。そのうちの半年間は、静岡市を核とする「静岡MaaS」の乗合型タクシーのサブスクモデル「のりあい放題」の実証実験業務を受託・遂行した。
両サービスともに利用者からは絶大な支持を得たものの、残念ながら単体での採算面で持続可能な仕組みにはできず、大きな課題を残す結果となった。
その課題こそが、まさしく地域全体のタクシー車両が垣根を越えて連携し、タクシーの実車時間率(稼働効率)を飛躍的に向上させ、利用者利便と事業者の生産性を両立させる「地域全体最適配車プラットフォーム」の構築であった。
2024年には大手の全国版配車アプリとは異なる、独自の「地域共通アプリ」導入の機運が静岡市内のタクシー業界で盛り上がったのだが、事業者間の利害調整がつかずに構想は頓挫した。現在、静岡市内には大手アプリの「GO」や「DiDi」、「Uber」が乱立し、一方で、地域独自アプリとして静岡TaaSグループの「タク呼び」と、今回の「よぶらー」が並立する状態となった。
結果として、私たちが当初目指した「地域全体での移動の効率化」は、未だ達成できていないのが冷徹な現状である。
かつての無線配車だけの時代から「共同配車」の難しさは常に指摘されてきた。だが、こうした事態を招いた責任の一端は我々静岡TaaSにもある。
初期の説明会で、ある参加者から「中立であるべき共同配車運営会社が、自らタクシー会社をM&Aで保有するのは問題ではないか」と指摘された。正論ではある。しかし、当時の私には、新たな局面を切り拓くにはリスクを取って先鞭をつける実験的なタクシー会社(実証主体)がどうしても必要だという仮説があった。どちらが良かったか、は未だに私には分からない…。
3.観光インバウンドと共創プロジェクトへのシフト
「タク放題」の壁に直面する中、我々は新規需要の開拓へと舵を切った。折り良くコロナ禍から復活した静岡市・清水港のクルーズ船インバウンド客に着目し、タクシーチャーター需要の取り込みへと活動の軸足を移した(2025年1月に株式会社静岡TaaSトラベルを設立)。
特に、静岡TaaSとして、2025(令和7)年度における国土交通省の共創プロジェクト「クルーズ船寄港時の空白解消とインバウンドタクシー観光のアップデート」に応募し、採択され、その実行に全力を注いだ。
一方で、この集中が、静岡市全域の「全体最適移動プラットフォーム」づくりへの関与を一時的に鈍らせた側面があったことは否めない。
しかし、この挑戦は大きな成果も生んだ。清水地区のデジタル化の遅れに対し、配車タブレットの普及がこれを機に一気に進み、プラットフォームを受け入れる土台(インフラ)が確実に拡大したのである。
また、共創プロジェクトを機に誕生した「イベント型日本版ライドシェア」の質を高め、英語対応を含めたインバウンド体験の付加価値向上にも繋がった。
事実、クルーズ船向けチャーターは、時間当たりの生産性が非常に高く、2023年10月に手配を開始して以来、同港への出店回数は155回、取扱高は9225万円、配車件数2981件、乗車人数は9637人に達している。多少は静岡市のタクシー業界と静岡市の経済に貢献できたのでは、とひそかに思う。
現在は、天候や現場の状況に左右される当日手配から、より計画的で手堅い「事前決済型の募集型・受注型企画旅行」への転換を急ピッチで進めているところだ。これこそが、静岡市におけるタクシー業界の需要を創出し、生産性を本質的に引き上げる道のひとつだと確信している。
4.2030年への展望―静岡TaaSグループが果たすべき役割
静岡TaaSが当初描いた未来は、紆余曲折を経ながらも、少しずつ、しかし確実に前進していると信じている。
紆余曲折はあるが、アプリによる共同化の流れは確実に進んでいる。将来的にそれぞれのグループがゆるやかに連携し、真の「地域全体最適プラットフォーム」へと昇華する未来は十分にあり得る。さらに、AIの進化は、こうした複雑な地域内移動の最適化や需要予測を、システム面・コスト面の両端から強力に後押ししてくれるはずだ。
2030年に向けて、静岡市、とりわけ清水区は劇的な変革期を迎える。清水駅周辺へのエスパルス新サッカース
タジアム構想、清水区役所の移転、新たなホテルや商業施設の集積により、移動需要は爆発的に拡大することが期待される。
地域の公共交通を守り、進化させる―静岡TaaSグループの果たすべき役割と責任は、まだまだ残されている。志を耕し続ける者として、迷いを捨て、ただただ愚直に奮闘するのみである。
(2026年8月23日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。
1976年 清水市の日の丸交通入社。
1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。
1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。
1992年 代表取締役社長就任。
2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。
2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
2025年1月(株)静岡TaaSトラベル設立

コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。


この記事へのコメントはありません。