タクシージャパン 掲載コラム

一年の時の経過がもたらす祝福

時の祝福

 実は、以下の文章は、昨年4月に掲載された第160回のコラム「クルーズ船チャータータクシー手配と地域共同アプリの意味」で書いた結末の部分である。
 それは、昨年3月から本格的に始まった、静岡市・清水港でのタクシーチャーター手配の中で見えてきた、3つの課題のうちの一つのことである。
 何を今さら古い文章を採録するのか、と言われそうだが、ほぼ一年間の時の経過の中で、夢想に近かった構想が実現しつつあることを、改めてお披露目したい、という誘惑にかられたからである。

見えてきた課題自家用車活用事業の先鞭

 それにしても、根本的な課題は、タクシー乗務員不足によるタクシー供給力の絶対的な不足である。特にチャータータクシーは長時間の拘束が発生するので、逆に一般のタクシー需要に応えられないという問題も発生する。そこで、国土交通省が推奨する自家用車活用事業の活用である。
チャータータクシーはまさに自家用車活用事業の条件である事前確定運賃であり、経路も事前に確定しており、時間も限定された時間のみの稼働である。また英語の堪能な一種免許保持者に最適な仕事であり、是非やってみたいという声も聞かれる。地方自治体の静岡市がこのクルーズ船客へのタクシー供給が不足していると静岡運輸支局に申告すれば、自家用車活用事業を自動的に承認すると国土交通省の通達には書かれているので、静岡市には是非、まずは自家用車活用事業をこの分野から取り組んで欲しいと思う。
(2024年3月25日記)

 そして遂に、静岡市から「日本版ライドシェアに係る要請書」が、令和7年3月12日付で発出された。この日本版ライドシェアは、地方都市で一般的に許可されている「金曜日の夕方5時から翌土曜日の早朝5時まで」とは違い、いわゆる「イベント対応型」の日本版ライドシェアであり、清水港において大型クルーズ船の寄港時に発生する一時的なタクシー不足に対し、タクシーの不足を補完して、タクシー会社に雇用される一種免許所持者が自分の自家用車、ないしはタクシーの有休車両を使って、時間制の貸切チャーターに限って運行が許可されるものである。
 通常、日本版ライドシェアは、配車アプリを使って事前に運賃を確定させ、運行の経路もアプリの指示に従う必要があるが、清水港に着岸するクルーズ船からの貸切チャーターは、神奈川県の箱根や山梨県での富士山観光などの長距離が多く、配車アプリによる距離計算やメーター運賃には馴染まない。そこで、国土交通省の判断で、クルーズ船などによる観光需要の促進を目的に、時間制による貸切運賃も事前確定運賃とみなしてくれることになった。英断である。
 さらに、配車アプリによる受注ではなく、旅行会社が利用者の要望に応じてコースを提案し、時間制による貸切で運賃を確定、事前に決済をすることで、乗務員とインバウンド客との間での運賃トラブルを軽減することも出来る。現在、日本を訪れるインバウンド観光客は飛躍的に増えているが、そうした中で、年間2500万人を目指すクルーズ船客を、タクシー業界が取り込んで行くことは必須のことである。また、クルーズ船の寄港地も国内100カ所を目指すとのことで、全国の寄港地で地元タクシー業界と日本版ライドシェアに、このビジネスモデルを敷衍してもらえれば、地方で日本版ライドシェアがなかなか根付かない問題への突破口にもなるのではないだろうか。

不足車両数の算出根拠

 静岡市の要請書によると、クルーズ船の寄港時における不足車両数は17台と算出されている。実のところ、クルーズ船の規模に応じた乗船客数、天候、とりわけ目玉である富士山が見えるか否か、清水港への寄港がクルーズの始めの方なのか、終わりに近いのかによって、チャーターの利用者数は大きく影響を受ける。時に、タクシーが足りなくてインバウンド客を1時間も待たせることがあれば、ほぼ待たなくても乗車が出来る時もある。
 しかし、最も注目しなくてはいけないのは、清水港におけるクルーズ船客は長時間のチャーターが多く、仮に、クルーズ船客を待たせることが少なくても、地域に50台ほどのタクシーしか存在しない午前中における長時間のチャーターは、地域住民の通院や通勤に大きな影響を与える懸念がある、ということである。正直なところ、クルーズ船客の長時間チャーターは、乗務員にとって「非常に良い仕事」なので、そちらを優先しがちになる。その意味でも、メーター器による通常のタクシー営業が出来ない日本版ライドシェアと上手く協業していく必要がある。いずれにせよ、一年前に日本版ライドシェアがクルーズ船客対応で活用出来たら、と願望したことが、実現の途に着手できたことは本当に感慨深い。
さらに、一年前に抱えた課題を取り上げたい!

見えてきた課題待ち時間の提示

 チャーター需要が集中し、タクシーが足りなくなった時に、クルーズ船の出港時間の制約もあるので、お客様からどのくらい待てばよいかとよく聞かれる。それによって、お客様は目的とする観光地に行けるかどうかを判断するのだが、現時点では残念ながら「わかりません」と答えるしかない。
 しかし、先月(昨年3月)のコラムでも言及したように、地域共同アプリを採用し、車載端末の位置と動態情報を公開してもらえれば、かなりの確率で要望に応えることができる。また、相互の共同配車と日の出埠頭の現地での需給状況をリアルタイムで伝達をすることも出来るようになる。
 さらに発展した話だが、日の出埠頭の現地に特殊車両による移動サテライト配車センターを随時設置し(これは日の出埠頭での強風対策にもなる)、そこから配車指示をすることも可能になる。まさに静岡のタクシー業界の高次のDX化が可能となる。年100回に及ぶクルーズ船の寄港をタクシー需要喚起の大きな柱とするには、そこまで考える必要があると思う。
(2024年3月25日記)

この究極の課題はどうなっているか?

 そもそも私が代表理事を務める静岡TaaSは、静岡市のタクシー業界における生産性の向上のために、共同アプリと共同配車の実現を目指して出発した一般社団法人だ。
実は、クルーズ船のインバンド客へのタクシー配車は、こうした地域全体最適配車プラットフォームが構築できれば自ずと解決できるものだ。
昨年の3月頃から静岡市のタクシー業界全体で共同アプリを採用しよう、との動きがあり、静岡TaaSとしても全面的に賛成し、その実現に期待したものの、残念ながら、現時点でその動きは停滞してしまっている。
 しかし、クルーズ船でのタクシー配車が、特に今年の5月以降、現在のタクシーとバスの駐車場が「海洋地球総合ミュージアム」の建設工事のために使えなくなってしまうことから、再度適切な配車のための共同アプリ、特に共通のタブレットが、無線対応のみの会社にとって必要になってくるのではないか、と思う。新しいタブレットであれば、県外を走行中でも、その位置情報や動態がわかり、メッセージのやりとりが出来るのでトラブルにも対処できる。さらに、現在の配車システムのデジタル化も一気に可能である。
 この課題の実現に、さらに一年の「時の祝福」を待たねばならないのか?それとも時代が後押しをしてくれるのか?は、誰にも分からない。
(2025年3月23日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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