タクシージャパン 掲載コラム

いよいよ動き出した静岡TaaS!

月額定額乗り放題サービス「タク放題」の始動!

募集型企画旅行の仕組みを活用したタクシー配車サービス「タク放題」がいよいよ始動する。同様の取り組みは、大手旅行会社のJTBやHISが既に福岡市や仙台市などで実験的に行ったサービスとしてはあるが、3キロ四方に地域を限定し、そのエリア内で乗り降りする需要であればタクシーが定額で乗り放題という今回の試みは、全国的にも先駆的なチャレンジであると思う。
 地域のこのサービスへの需要は明らかにある。今回設定する静岡市街地の北西部エリアは人口4万5000人を擁し、県庁や市役所、繁華街、主要医療施設を含むエリアでありながら、高齢化率も高く、65歳以上の高齢者が1万5000人を超える一方で、交通の便が悪い地域もあり、移動に不自由さを抱える人たちが多数存在する。
 また、高齢者による悲惨な交通事故の事例が報道される中で、運転免許証の返納者も増えている。私自身も高齢者ではあるが、今もタクシー乗務を勤める中で、免許返納者が足の確保に困っているという話をよく聞かされる。免許返納者はタクシーの良いお客様ではあるが、しかし、余裕のある方ばかりではなく、結果として外出が減り、精神的にも体力的にも衰えていくことが危惧される。
手軽で安価な移動手段が必要とされるが、その選択肢の一つとして「タク放題」のような定額乗り放題の移動サービスがお役に立つと思われる。

「タク放題」はビジネスとして成り立つか?

全国各地で、こうした地域の移動の問題を解決するために様々な実証実験が行われている。静岡TaaSの「タク放題」も今年7月から12月までの実証実験として行う予定だが、しかし、あくまでも目標は本格運行のサービスとして来年以降も継続し、社会実装することを前提とした移動サービスであり、そのための経験と改善のヒントを得るための実証実験でもある。従って、国や行政の補助金などを前提とした事業モデルではなく、いわばビジネスとして継続が可能なモデルを指向せねばならないと思っている。そのためには、いくつかの大きな課題が存在する。

「タク放題」会員を獲得できるか?

このサービスは月額定額の「旅行サービス」を購入してくれる会員を獲得することが出発点となる。
 今回の「タク放題」の実証実験では、65 歳以上の方は月額8000円、65 歳未満の方は月額10000円という料金を設定するが、午前10時から午後5時までの運行であり、エリアと時間を限定したこのサービスにこの料金を支払ってくれる方がどのくらいいるのか?また、そのような方をどのような方法で獲得していくのか?
 静岡TaaSは旅行業の資格を持ってはいるが、残念ながら、旅行事業の営業経験がある訳でない。7月1日のサービス開始に向けて6月から実際の営業活動を開始し、経験を積むしかないと思っている。 具体的には2つの営業ルートを準備している。ひとつはオーソドックスに新聞の折り込みチラシとポスティングでこの新しいサービスの告知を行い、葵スクエアなどのイベント会場にブースを設置して勧誘、説明、申込、決済、会員証発行などを行う方法である。
 もうひとつはサービス内容が地域の福祉活動に役に立つこともあり、社会福祉協議会や民生委員などのルートを通じての説明、勧誘活動を行う方法である。6月以降、継続的にこうした勧誘活動を行うが、今回の実証実験では400人という会員数を目標にしたい。

タクシー事業者にとっての「タク放題」

一方、この「タク放題」の運行を担うのは当該地域で営業しているタクシー事業者である。このタクシー事業にとってライバルになりかねないサービスをタクシー事業者が担うメリットは何か?それは従来のタクシーサービスと運賃では顕在化しない、潜在的なタクシー需要の掘り起こしである。特に午前10時から午後5時までという時間帯がタクシーにとっては閑散時に当たるので、このサービスの運行により運営主体である静岡TaaSへの固定売上が発生すれば、事業者にとっても増収のメリットがある。幸い、今回の実証実験エリアを地盤とするタクシー事業者2社がこのサービスの運行を引き受けてくれたので、サービスを実施する目途がついた。有難いことだ。

問題はビジネスとしての継続性

取り敢えず会員を獲得でき、運行するタクシー車両を確保できたとして、それがビジネスとして継続するためには、会員がそのサービスに満足して会員として継続してもらい、またタクシー事業者にもメリットのある借上げ運賃を払っていけることが必要となる。
 利用者に満足してもらうためには借上げ車両を多くして、いつでも「タク放題」のサービスが利用できることが最適である。しかし一方で、多くの車両を借り上げれば限られた会費の中で採算が合わなくなる。何人の会員数に対して何台の車両をいくらの費用で供給するのか、これがサービスの質に大きく影響する。また会員の間でも、同じ金額を払っても頻繁に乗る方とそうでもない方がいる。まさにホテル等でのバイキングと同様の問題が生じる。設定するエリアの広さ、交通状況、乗り放題の価格、借上げ価格、台数、配車効率などのすべての要素がうまくバランスを取れてこそこの乗り放題サブスクサービスの継続性が保証される。そして残念ながらこれはやってみないと正解が分からないというのが本音である。
 ハッキリしているのは、この移動サービスが利用者にとってもタクシー事業者にとっても行政にとっても必要なサービスであり、静岡市民の日常生活の質に大きく影響し、都市政策にも関わってくる問題でもあるということだ。試行錯誤は避けられないと覚悟はしているが、それなりの解を実現できたら、同様の問題を抱える日本の多くの地方都市にも参考になるのではないかと思う。

共同配車センターと共同点呼

一方、「タク放題」の効率的な運用のためにも共同配車が是非とも必要だと考えている。サブスクモデルは規模が大きいほど効率的で、リスクを分散できる。会員数の全市的な拡大と共同配車をベースとしたAIの活用による配車の効率化が必須である。6月にずれ込んでしまったが、静岡市内沓谷のフジビル2階に共同配車センターの受け皿を先行して開設する。また共同点呼への橋渡しとして、駿河交通の沓谷営業所を開設して本日(5月23日)、遠隔点呼の申請を静岡陸運支局に提出した。認可されれば7月1日から遠隔点呼が実施でき、共同配車の推進に大きな障害となっている点呼問題を解決するための道筋が出来ると思われる。
現在は同一会社・同一資本内の営業所間点呼しか認められていないが、地方の小規模タクシー会社の実情からして協同組合等による遠隔共同点呼の実施は是非とも早期に実現してもらいたい。
 静岡市の行政当局も市民の最後の足としてタクシー事業の存続の必要性も強く感じてくれているようで、国へのこうした面での規制緩和も働きかけて行く意向のようだ。まさにここ1、2年が正念場だと思っている。このチャンスを逃すと、大手のタクシー事業者しか地方では生き残れない。それでも良いと言う考え方もあるが、やはり、中小のタクシー会社がそれぞれ個性を持ちつつ、共に頑張って行く姿の方を目指したい。
(2022年5月23日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。