タクシージャパン 掲載コラム

再考・タクシー業の生産性向上

共同点呼をテーマに第4回静岡TaaS説明会開催

 新年明けの1月21日に、静岡市駿河区東静岡に立地する船を形取った大規模複合施設「グランシップ」において、第4回となる静岡TaaSの説明会を開催した。
 説明会のメインは、今回から新たに静岡TaaSの正規会員として参加することになったアルコール検知器トップメーカーの東海電子(静岡県富士市)の杉本哲也社長による共同点呼の可能性についての講演であった。


 講演では、「タクシー点呼のニューノーマルへ」と題して、遠隔点呼や共同点呼について、先行するトラック業界の事例を説明しながらタクシー業界の現状と課題を整理していただいた。
 先月号のこのコラムで指摘したように、共同配車を広く普及させるためには点呼の問題をクリアする必要があり、遠隔点呼や共同点呼がその鍵となることは、地方の中小タクシー事業者にとって共通の認識になっていると思う。
 今年4月から営業所間の遠隔点呼が制度化されて申請受付がスタートすることは大きな前進ではあるが、さらなるIT技術を駆使した点呼業務の高度化による共同化を期待したい。

本質的課題は時間当り生産性の向上

ただ、仮に共同配車・共同点呼の実現により配車、管理コストが削減されたとしても、タクシー事業の生産性の低さという構造的な問題の解決とはならない。
 現行のタクシー事業には、結果的に大きな無駄と機会損失が生じている。ともすれば、需要が無い時間や場所に供給が行われ、その一方で需要がある時間や場所に的確な供給が行われない。さらに地方では、保有台数の少ないタクシー会社がそれぞれに電話受け、配車を行っているので、このミスマッチの確率はより高くなる。
 地域共同配車がこの面で意味を持つのは、AIの活用により地域全体の総需要に対し、総供給でタイムリーに対応することで、この需給のミスマッチを確実に低減することが出来ると考えるからである。
 また、地域全体を対象とするプラットフォームが提供する配車アプリと車載タブレットにより、需給のマッチングだけでなく、顧客に一番近いタクシー車両が配車されることによって、利用者にとっては短時間で配車を受け、乗務員にとっては無駄な走行を減らすことが出来る。
これが地域最適配車プラットフォームの理想形だが、残念ながらこうした世界は一挙には実現しない。各タクシー会社の歴史と実情から来る様々な制約があり、まずは現状の各社の会社名や電話番号を含む配車ルールを踏襲した形で、各社の配車業務の共同コールセンターへの委託から始めて、そこから相互配車、そしてプラットフォームによるサブスクなどの新たな需要と顧客の開拓などを経て、地域全体最適プラットフォームのメリットが顕在化し、個々のタクシー事業者に徐々に受け入れられて行くものと思われる。そのためには、粘り強い努力と長期的視点が必要だと思う。

供給=乗務員の勤務時間帯のフレシキブル化

需要に対し、効率の良い供給をするためにはしっかりとしたデータに基づく需要予測が必要となるが、一方でその需要予測に対し、乗務員の勤務をフレシキブルに対応させる必要がある。
 タクシー事業の公共性や利用者利便の確保もあり、あらかじめ乗務員の交番表を組んで、各社ごとに移動サービスの途切れない供給体制を維持するように努めてきた。交番表では、多少の需要変動が考慮されているケースもあるものの、曜日、時間帯、天候、イベントなどをフレシキブルに組み込んだものとはなっていない。
 実は地方のタクシー会社の乗務員は、経験則的に個人でこの需要予測を行い、個々人の実情に応じて勤務をしているケースもある。しかし、これは個人にとっては最適でも、会社あるいは地域全体ではミスマッチをもたらし、例えば朝の移動が集中する時間帯にタクシーの供給が間に合わないという事態を生じさせている。一方で、この個人的な、言わばフレシキブルな勤務スタイルの手法は、需要に合わせた供給マッチングという点では重要なヒントになると思われる。
 要は、需要がある時に勤務するということだ。そのためには、一律の交番表に基づく勤務ではなく、労働基準法や改善基準告示などのルールに準拠しつつ、その範囲内で一カ月の総拘束時間や労働時間を持ち時間として、それを消化する形での運用が必要になるのではないか。それも一事業者の枠内で行うのではなく、地域全体のタクシー事業者が連携して行い、地域の移動需要に対して、的確に供給対応していけるようにする。そこにこそAIを活用したDX化(デジタルトランスフォメーション)の活躍の余地があるのではないかと思う。

サブジョブドライバーの活用

タクシー事業者にとっての生産性の大きな要素が、台当たりの実働時間率である。
タクシー事業は許認可事業なので、無制限に車両を増やせる訳ではない。その貴重なサービス生産資源であるタクシー車両の稼働時間は、会社にとっての生産性向上のポイントである。ところが現在、静岡市内のタクシー認可車両数は約1000台あるのに、そのうちの600台程しか稼働していない。実働時間率0%の車が4割もあるのでは、経営は覚束無い。その原因は需要不足と供給のミスマッチにもあるが、端的には乗務員がいないからである。
 残念ながら現在の長時間労働と報酬では、なかなかフルタイムでの乗務員のなり手がいないのが現実である。
そこで副業(複業)でやれるサブジョブドライバープラットフォームを機能させることを、静岡TaaSの基幹事業のひとつとして志向してきた。その実現のためには、いくつかの課題を解決する必要がある。

二種免許の壁

 サブジョブドライバーはフルタイムではないので、勤務時間は短く、売上も少ない。そのため、タクシー事業者にとっては、養成乗務員としての二種免取得に多額の費用をかけることには躊躇がある。
 そのため、運転免許試験場の外来で、低費用で二種免許を取得できるようにする。

乗務員登録の壁

また、乗務員証を交付してもらうためには平日二日間の講習を受ける必要がある。
これも土曜日、日曜日、夜間、あるいはオンラインで研修を受けられるようにする。

乗務員証を個人に発行

さらに、このテーマは議論になりそうだが、現在の乗務員証の発行は、タクシー事業者での雇用を前提としているが、これを運転免許証と同様に、乗務員個人に対してその地域の乗務員証を発行し、需要に応じて当該地域のタクシー事業者にマッチングできるようにすればサブジョブドライバーをタクシー業界に構造的に呼び込めると考えている。また、この仕組みなら、既に二種免許を取得していて現在は他の仕事をしている乗務員経験者でも、サブジョブドライバーとして各社で随意に乗務することできるのではないか。クリアすべき課題は多いが、この辺の運用の工夫によって、ドライバー不足もかなり改善できるのではないかと思っている。
(2021年1月23日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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