タクシージャパン 掲載コラム

タクシー産業の未来は実は明るい

「大阪のタクシー問題を考える会」の講演・討論会に参加

12月8日、大阪市天王寺区のホテルアウイーナで開かれた「大阪のタクシー問題を考える会」に、講演者の一人として参加した。今回のテーマは『タクシーの未来とMaaS』という大きな課題で、コロナ禍で苦しむタクシー業界の中でこうした未来的で前向きなテーマ設定をされた会の主催者の意気に感心した。
 講演者の陣容は、今話題の一般社団法人X Taxi(クロス・タクシー)代表理事で電脳交通社長の近藤洋祐氏、広島県福山市で観光グリーンスロー・タクシーを手掛け、NHKの番組「サラメシ」でも紹介されたアサヒタクシーの山田康文社長、そしてシステムオリジン前社長ということもあり、私にもお声がかかった。
 
10月末に、以前メンバーでもあったタクシー問題懇談会でDiDiモビリティ・ジャパンでの経験と教訓を話す機会をいただいたが、今回のような比較的大規模で、また多くの事業者の前で話す機会が最近はなかったので、自分のアップル・ウォッチの脈拍計が100を超えるほどの緊張状態に、自分でも思わず笑ってしまった。
 考える会では、私を含めた3人の講演者による一人20分の講演の後、パネルディスカッションが行われた。パネリストには、3人の講演者に、考える会の世話人である珊瑚グループの山根成尊代表が加わり、やはり世話人である梅田交通グループの古知愛一郎代表の司会進行で討論が行われた。
 パネルディスカッションの進行は、古知代表が設定した「タクシーの過去、現在、未来」の姿について、それぞれが意見を述べるという形でテンポ良く進み、最後に会場に参加していたタクシー事業者が感想や意見を述べることで、3時間を超える長丁場の講演・パネルディスカッションが終了した。

法人タクシーの未来は暗いか?

考える会の冒頭、同会の名誉顧問である関西中央グループの薬師寺薫代表が挨拶に立ち、「そんなに輝かしい未来はタクシーにないと断言していいのではないか」と発言された。
 長年タクシー業界に携わり、業界の重鎮でもある薬師寺代表の発言の意味と現実は重いし、ある意味で少なからぬ事業者が同じ思いにとらわれているかも知れない。
しかし、タクシーの未来を語るとしたら、それは願望と意志も含めて、私は「その未来は明るい」と言わざるを得ない。但し、それは過去、現在のタクシーのビジネスモデルの延長線上では無く、IоTやビッグデータ、AIで再定義されたラストワンマイルを担う移動産業の中核としてのタクシー産業の蘇生の可能性を信ずるからである。

『総合生活移動産業の核としてのタクシー産業の蘇生の為に』

この小見出しは、私の講演資料の表題で、実は今年の1月に沖縄県タクシー協会の新春勉強会で講演させていただいた時の資料の流用である(汗)。コロナ禍が、その兆しを見せ始めた直後の内容で、感染拡大以降、すっかり業界の様子は変わってしまっているが、しかし、ことタクシー産業の未来という点では、本質的なテーマに変化は無いと思う。
 確かに、今やコロナ禍で移動そのものが制約され、MaaSというテーマも色あせたかに見えるが、しかし、数年経ずしてコロナ禍は必ず収まり、MaaSによる利用者の利便性と移動産業の生産性の向上は必ず必要であり、かつ実現の客観的条件は整っていくはずである。その中でMaaS実現の重要なカギはラストワンマイルを担う移動産業、とりわけその核としてタクシー産業がMaaSの重要な部分をなすプラットフォームを構築できるか否かである。
 いま各地でコロナ禍でもMaaSの様々な実証実験が行われているが、ともすればタクシー業界がその枠組みから外されがちであり、大阪や伊豆などの事例でも、バス事業者によるオンデマンド交通への参加が増えている。タクシー業界が率先して地域に最適な移動プラットフォームを構築し、MaaSの受け皿(勝手に命名してTaaSと称しているが)にならなくては!と、危機感ばかりが募っている。

タクシー事業の生産性を如何に上げるか?

考える会における私の講演の主要テーマは、タクシー事業の時間当たりの生産性を如何に向上させるか、ということであった。菅政権の成長戦略会議の議員であり、様々な著書で日本企業の生産性の低さを指摘しているデイビッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社社長)が、その大きな理由が日本の戦後の中小企業政策にあり、その転換を推奨している。この意見には様々な異論があるとは思うが、少子高齢化が進み、人口の減少、中でも生産年齢人口の減少が極端に進む中で、一人当たり、時間当たりの生産性を上げて行くことは日本社会にとって必要不可欠なことであり、とりわけ時間当たりの生産性が低いタクシー産業にとってはもっとも重要な課題であると思う。
 そのための方策としては、個々のタクシー事業者の生産性向上のための企業努力も非常に重要だとは思うが、一方で一企業ではどうにもならない部分も多く存在する。特に日々の需要と供給を効率的にマッチングするには地域全体最適を実現するプラットフォームが必要だ。さらなる高度な需要予測とそれに基づくフレキシブルな供給体制を構築するためにはIоTやビッグデータ、AIという現代のITの三種の神器を活用し、また、供給面での要となるフルタイムの乗務員だけでなく、政府の方針にもある副業の推奨を活用した副業ドライバーを業界に構造的に呼び込んで運用するプラットドームも必要になる。そうした仕組みなくしては、業界全体の実車時間率と実働時間率の不断の向上は難しいと思われる。
 「タクシーの未来は明るい」と言えるためには、こうしたデジタルIT技術を活用した新たな移動産業へのタクシー産業の転換(デジタルトランスフォーメーション)を成し遂げる、そして、決して簡単ではないその事業とのセットで、はじめて実現できるのだと思う。

隗より始めよ

こうした「能書き」を無責任に外野で言うのは簡単だが、実際にそれを行う人にとっては無数の困難を伴う。私自身も実はあまり自信は無いのだが、少なくとも同じ土俵で試行錯誤をしなくてはならないと思い、実際のタクシー経営に携わりながら、こうしたプラットフォームの実現にチャレンジしたいと考えている。地方において比較的条件の良い地域でこうしたプラットフォームを構築する試みをして、もし成功事例を作ることが出来れば、他の地域の役に立つかもしれない。
 そのプラットフォームで目指したいのは、

①電話&スマホアプリの共同受注と多機能配車タブレットの運用
②高度な重要予測と配車(交番)供給計画
③サブスクリプション(月極定額運賃)の普及 
④副業ドライバープラットフォームによるスポット乗務員の構造的かつフレシキブルな供給
⑤タクシー事業者による協力型自家用運送の需給マッチングへの活用

ーなどである。
 どれひとつとして簡単に実現出来そうには無いが、時代の後押しもあり、5年間という単位であれば実現可能ではないかとも思う、薬師寺名誉顧問に「タクシーの未来は実は明るかったんだな」と言ってもらうためにも。
(2020年12月20日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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