タクシージャパン 掲載コラム

地域TaaSの創設に向けて

地域交通プラットフォームの核としての地域TaaS

TaaSと言う言葉は、耳慣れない言葉だ。何でも横文字の略語を使いたがるのはIT関係者の悪弊と知りつつ、MaaSをもじって、TaaSという言葉をTaxi as a Serviceの略語として自作して使い始めた。
 MaaS(Mobility asaService)は鉄道やバス、タクシー、旅客船、航空機など複数の移動手段を統合する総合的なサービスだが、TaaSの趣旨はファースト及びラストワンマイルを担うタクシーを中心にして最終目的地までの移動に一元的で多様なサービスを提供するプラットフォームを目指したものだ。
その意味で話題のMaaSも実はラストワンマイルを担うTaaSの確立なくして機能しないのではないか、というのが私の仮説である。
 つまり、地方や地域の移動においては鉄道もバスも重要だが、このラストワンマイルを担うタクシーこそ地域交通の核になるのではないかと思う。タクシー事業者の役割は大きく、その産業としての持続性の確保はタクシー業界のみならず、地域住民にとっても、その移動を担保するための重要な意味を持っている。
 しかし、現実には新型コロナ禍の中で、多くのタクシー事業者は疲弊し、その事業の存続も危ぶまれている。従って、その最後の足としてのタクシー事業の存続のために公的な補助も必要だが、より本質的には、タクシー産業の生産性の低さを抜本的に改革する意識と仕組みが必要であり、そのためのプラットフォームとして地域TaaSの創設が問われているのではないか、と思う。

地域交通の移動産業はローカルでリアル

私が配車アプリのDiDiモビリティジャパンに2年間関わっての一番の教訓は、配車アプリという一種のプラットフォームは必ずしも全国的である必要は無く、むしろしばしば全国的であろうとすることによって、様々な非効率を生むということである。
 配車アプリプラットフォームがタクシーの生産性を上げ、かつ自らの収益性を確保するためには、地域のタクシーの営業回数の7~8割が配車アプリによるマッチングになるまで普及する必要があると思われる。しかし、現実には数パーセントでしかないと聞く。配車アプリの普及のために旅行業などのスキームを使って割引クーポンを発行するなど事実上の値引きによって利用者を増やそうとしてきた。このこと自体はタクシー事業者にとってひとつの恩恵ではあるものの、多大なコストがかかり、利用者拡大の効率という点で課題があり、配車アプリ会社自体の持続性に疑問が残る。
 また地域交通には多様性があり、全国一律の仕組みでは対応しきれないケースが多い。さらに地域交通はリアル産業でもあり、ネットの世界だけで完結するものではなく、地域の利用者、交通事業者、行政の実情を深く知り、その現実に合わせたプラットフォームを作らねばうまく機能しない。従って、この地域プラットフォーム(地域TaaS)には全国一律の解はなく、地域ごとの手作りの試行錯語の挑戦となる。この標準化、システム化の時代に何を悠長なことを、と言われそうだが、しかし、ある地域でしっかりとした成功例を実証できれば、その経験はもちろん全国に伝播し、それぞれの地域に応じた地域交通プラットフォームの形成に役立つであろう。
 少なくともGAFAのようなグローバルでバーチャルな世界でプラットフォームが全世界に伝播するという形にならないと思われる(UberやDiDiの世界展開での苦戦が表しているように…)

地域TaaSの基本構造

地域交通プラットフォームである地域TaaSの構造を図で示してみた。まず地域TaaSはより広い概念であるMaaSの一部であるが、その核心である。また、それは地域創生、都市づくりの一環でもある。そしてプラットフォーマーである以上、移動需要と供給の効率的マッチングの仕組みを基本とする。このプラットフォームは地域の賑わいの基本である移動需要の創造とその需要に過不足なく、そして効率的な(生産性の高い)供給の仕組みを持つ必要がある。そのために図にあるように、このプラットフォーム自らが移動需要の創造の機能を持たねばならない。その基本は次の4点。
① 地域コミュニティとの結合
② 地域行政との連携
③ ダイナミック運賃
④ ターゲットを絞ったサブスクリプション運賃
 そして、その需要に対して的確にコントロールされた供給の提供。そのためには、
● 重要予測に基づくフレキシブルな交番
● 相乗り運行の活用
● 副業ドライバーの活用
● 協力型自家用有償運送の活用
 この地域交通プラットフォームが真に機能すれば、タクシー産業の実車時間率、実働時間率が向上し、地域のタクシー事業者の生産性が向上し、その事業の持続性、発展性が担保される。結果、地域住民に安心・安全で廉価な移動が確保される。今のところこの仮説は絵に描いた餅のレベルでしかないが、是非この構想を多くの人の協力を得て実現したいと思う。

地域TaaSの実際の業務

この構想を実践するために一般社団法人地域TaaSを設立したいと思う。もちろんこの地域プラットフォームはその地域の実情に応じて様々な形で良いと思う。熊本での例のように地域交通ホールディングスとタクシー事業連合という形でも良いと思うし、また協同組合でも良いと思う。そしてこの地域プラットフォームの具体的な事業を、法人の定款風に定義するとこのようになると思う。

(事業)
⑴ タクシー事業者等の共同配車の仕組みとしてのコンピューターシステムやスマートフォンシステム
の提供事業、ならびに提供事業を行うための研究開発事業
⑵ タクシー事業者等の定額運賃制度や事前確定運賃制度、乗合い運賃制度等、移動需要の喚起・促進・創造のための新サービスの開発ならびに提供事業
⑶ タクシー事業者等の移動に関する共同チケット事業及びそのデジタル化、その他タクシー事業遂行に関わる業務の受託事業
⑷ タクシー事業者等が円滑に従業員を雇用するための人材募集や人事管理のためのコンピューターシステムやスマートフォンシステムの提供事業、ならびに提供事業を行うための研究開発事業
⑸ 車両、燃料、備品などタクシー事業等の事業を効率的に営むための共同購入及び配給事業
⑹ タクシー事業者等が円滑に事業を運営する為の教育、研修、人材紹介事業
⑺ 移動需要を喚起・促進・創造するための地域コミュニティの創生事業
⑻ 移動需要を喚起・促進・創造するための旅行事業
⑼ 前各号に掲げるもののほか、本会の目的を達成するために必要な事業
(2021年3月29日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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