タクシージャパン 掲載コラム

静岡版地域ライドシェアを目指せ!

地域の移動の問題は単一の移動手段では解決できない

「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・一般ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱い」に係るパブリックコメントが始まった。
 道路運送法78条3号の解釈を柔軟化する形でのタクシー事業者による自家用車活用事業=日本版ライドシェアを、どう評価するのかが問われている。もし静岡TaaSでパブリックコメントを書くとしたら、どんな内容になるのかを考えてみた。そのためには、そもそも静岡TaaSは何を目指してスタートしたのか、を振り返ってみる必要がある。
 2021年5月21日に開催した、初めての静岡TaaSの説明会において「静岡TaaSの構想」というプランを提案させてもらった。(図を参照)。


 このプランは、地域におけるタクシー産業さらには移動産業の持続・発展のためには、「多様な移動の需要」と「多様な移動の供給」を地域全体で結び付けて最適配車を行うプラットフォームが必要だ、というのが骨格である。
 その静岡市におけるプラットフォームが静岡TaaSであり、地域全体の共同配車・共通アプリとサブジョブドライバーアプリによって需要と供給の最適マッチングを行い、実車時間率と実働時間率を向上させ、生産性の向上によってタクシーのみならず移動に係る産業の持続性を担保し、静岡市民の安全、安心、廉価な移動の確保を目指す、ということが静岡TaaSの設立目的であった。
 昨年10 月に施行された地域交通法(改正地域公共交通活性化・再生法)でも指摘されているように、地方における公共交通と移動の問題は単一の移動手段では解決できず、多様な移動ニーズに対応するためには様々な移動手段の共創が必要であり、それを地方自治体が主導すべきと提言しており、まさに地域全体最適を実現するプラットフォームを作らねばならないと示唆しているのだと思う。
 最近はMaaSという言葉をあまり聞かなくなってしまったが、まさに広範な移動の供給手段を統合するプラットフォームだと思う。静岡TaaSはタクシーを中心としたラストワンマイルを担う移動手段を統合することで、MaaSの中核的一翼を担いたいとして設立したものである。そうした目標からみた場合に、今回の「自家用車活用事業」をどのように評価できるのか?

サブジョブドライバープラットフォーム

静岡TaaSでは、実働時間率を上げるための乗務員獲得は、現状においてフルタイムの乗務員では難しく、副業や兼業のサブジョブドライバーの獲得を目指すべきだと考えていた。タクシー乗務は、他の職業に比べワークシェアリングが行いやすい仕事であり、副業であればタクシー乗務をしてくれる人が多いのではないかと思い、副業ドライバーの活用を目指していた。
 一方で、副業ドライバーでも二種免許取得の必要があり、その養成に費用がかかるので、あまり乗務時間の長くない副業ドライバーの採用・養成に躊躇するタクシー事業者が多いと思われた。そこで自動車教習所に通うことなく直接試験で二種免許を取得するためのプログラムを考え、教習DVDなどを開発したが、実績を上げることが出来なかった。
 パブリックコメントが実施されている今回の制度案では、地域や時間の指定が必要となるなど様々な制約があるとはいえ、一種免許で自家用車あるいは遊休タクシー車両に乗務できるということなので、この二種免許取得の壁が乗り越えられることになる。
 出来れば地域のタクシー業界全体への副業ドライバーの供給という点で、複数のタクシー会社に乗務できるようにすれば車両と副業ドライバーのマッチング率が高まるのでより効率的になる、と言えるだろう。

ふたつの一元的運用が大事

タクシー会社が、日本版ライドシェアである自家用車活用事業を行う利点は、タクシーとライドシェアを一元的に運用できることである。
 利用者の中には、タクシーでなければイヤだ、という人もいるし、どちらでも良いという人もいる。それを一元的に配車センターで振り分ければ、効率的な配車に繋げることが出来る。複数の移動手段の共創の第一歩でもある。
 また、もうひとつ大事なポイントは、電話注文とアプリの一元的運用である。ライドシェアを配車依頼したいが、アプリを使えないお年寄りが残念ながら地方ではまだ多い。そこで、電話を受ける配車センターで乗車地と降車地を聞き、経路と運賃を事前確定し、その内容をドライバーの配車端末に送るという作業が必要になる。地域のタクシー業界が共通の配車センターを持ち、共通の配車アプリと共同の電話受付配車センターを持つことによって、地域全体における効率の良い配車が可能となる。
共通の配車センターでは必ずしも各社を一か所に集める必要は無く、各社が独自性を持ちつつクラウド上でデータを共有、一元化することによって、状況に応じた車両の効率配車を実現することが出来る。

地域全体最適プラットフォームへの進化を!

このタクシーと日本版ライドシェアの配車センターが、共創を謳う行政の地域公共交通計画の下に、他の移動手段についてもデジタル技術やAI技術を駆使して統合一元化し、進化していくのが目標である。移動のニーズは多様であり、また、その移動に支払える費用も多様である。その多様な移動ニーズに効率よくマッチングを行える地域全体最適移動プラットフォームの構築こそ、最終的な移動問題の解である。
 静岡市を例にすると、シェアサイクルの「パルクル」、デイケアサービスなどの送迎車、保育園や幼稚園などの送迎車両、各種学校のスクールバスなど活用できる移動車両がアプリと車載タブレット端末で一元化されれば、地域のラストワンマイルの移動は確保できる。そこにバスや鉄道、飛行機など、より広域の移動を担う交通機関がデジタルで一元化されれば、まさにMaaSが目指した世界が実現する。

静岡TaaSの地域版ライドシェアへの挑戦!

静岡TaaSではこのレベルの地域全体最適プラットフォームを目指し、まずは地域共通アプリ「タク呼び」の普及、共同配車のネットワークの構築を推進し、地元のタクシー専門システム会社である株式会社システムオリジンと連携し、静岡市の実情に対応した日本版ライドシェアサービスの立ち上げに貢献したい。
 6月に閣議決定される政府の「骨太の方針」や規制改革実施計画なども踏まえながら10月には静岡市におけるタクシー事業者による日本版ライドシェアサービスを開始する。3月末に予定する説明会にて、詳しく説明をしたい。
(2024年2月21日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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