タクシージャパン 掲載コラム

静岡TaaSとAI

一般社団法人静岡TaaSが発足

 4月26日に私が理事長を務める一般社団法人静岡TaaS(タース)が発足し、5月21日に静岡市内の「クーポール会館」において静岡市のタクシー事業者向けの説明会を開催した。
 説明会には、タクシー事業者だけでなくタクシー事業者をサポートする法人、個人、行政からの参加もあり、30名を超える皆さんに一般社団法人静岡TaaSの設立趣旨と概要、そのサービス内容、スケジュールを聞いていただいた。
 実は、この一般社団法人には前身があり、東京ハイヤー・タクシー協会の共通配車アプリ「スマホdeタッくん」のサービスを勝手連的に全国に普及しようと2016年に「スマホdeタッくん全国普及促進協会」として都内で発足した組織だ。しかし、東タク協の「スマホdeタッくん」自体がそのサービスを終了したことから、それではタクシー業界の大きな課題である乗務員不足解消の役に立てようと2018年に「海外ハイタク人材就業促進協会」に組織の衣替えを行った。しかし、一般社団法人海外ハイタク人材就業促進協会は、確たる成果を上げることが出来ず、また新型コロナ禍で海外との間での人材の往来が難しくなっていることもあり、このほど静岡市に特化したタクシーの地域最適プラットフォームとして組織の再生を図ることになった。
 これまでの経過をみると、何か使いまわしのような一般社団法人で申し訳ないが、初代から続く設立の趣旨が「タクシー業界の持続、発展のために少しでも役立てば」という思いであることだけは変わらない。今回の「三度目の正直」の一般社団法人静岡TaaSが、真にタクシー業界の役に立ちうるかどうかはこれからの我々の努力次第だが、一方で、タクシー業界の持続、発展のためには、地域のコミュニティや行政の移動ニーズ、さらには地域の発展と結び付いて行わなくてはその成功は覚束ない、という新たなというか、ある意味当たり前の視点を得て、今回のチャレンジをすることになった。

地域の足を守るためには、一方で事業者の持続が必要!

5月21日に開催した説明会では、設立趣旨の第一に「静岡市の市民のラストワンマイルの移動の利便性を確保し、静岡市民の居住性の向上を図り、静岡市の都市としての発展に寄与する」と掲げた。この視点が今まで私には希薄だったことを反省している。
 その一方で、タクシー事業サイド出身者である自分の本音としては設立趣旨の二番目「ラストワンマイルの移動の需要と供給を効率よく結びつけ、住民の利便性のみならずタクシーを核とする移動産業の生産性を向上させ、産業としての持続性と更なる発展を図る」ということを是非、実現したいと思っている。
 そして、具体的な目標として、静岡TaaS参加するタクシー事業者が、優良事業の目安とされる経常利益率10%を達成できることを目指したい、と表明した。(汗)
 コロナ禍による赤字に苦しむ現状はもとより、コロナ以前でもこうした数字はタクシー事業の実情とはかけ離れているかもしれないが、しかし、地域最適、かつ総合的な移動プラットフォームを活用し、実働時間率、実車時間率を向上させ、タクシー事業の時間当たり生産性を飛躍的に向上させれば、決して夢物語の数字では無い、と信じている。

「IoT、ビッグデータ、AIの時代と静岡TaaS」

この小見出しは、説明会の冒頭で行われた東京大学大学院准教授の伊藤昌毅先生の記念講演の演題である。
 経常利益率10%というタクシー業界にとっての夢物語を実現するためには、実は静岡TaaSを「IoT、ビッグデータ、AI」を真に活用できるプラットフォームとして成長させなければならない。
 静岡TaaSが掲げる8つの事業内容である

①共同配車 ②人材供給 ③教育研修④業務受託 ⑤定額運賃 ⑥地域創成 ⑦旅行事業 ⑧共同購入

がそれなりに機能すれば、コストの削減と配車効率の向上、需要の創出と人材の確保は明らかに進むと思われる。しかし、それは改善であって、タクシー・移動事業のパラダイムの転換と経常利益率の10%越えなどの画期的な結果をもたらすことは難しいと思う。孫正義氏の言う「AIがすべての産業を再定義する」時代の意味を深く考える必要があるのではないかと思う。
 いま全国的なスマホ配車アプリはAIの活用を謳うが、タクシー産業を「再定義」するようなレベルでの運用が出来ているとは思えない。極端に言わせてもらえれば、タクシー事業者が今日まで配車で運用してきた電話受付とタクシー無線を活用したGPSIAVM配車システムを大きく超えるものではない。もちろん電話の代わりにスマホ、クラウドを活用した一元的な共同タブレット配車システムなど、まさに先進的な機器と環境を駆使してはいるが、真の意味で、つまりすべての産業が「再定義される」ような時代の画期としてのAI(人工知能)の活用はできておらず、移動産業の本質的な生産性の向上に貢献できているとは言い難い(少なくとも日本では…)。むしろ彼らの一番の貢献は、極めてアナログ的なクーポンを活用した運賃の割引だと指摘できる。それはそれで利用者と事業者に一定の貢献をしてくれてはいるのだが…

AIは膨大なデータなくしては只の赤ん坊

 昔流行った言葉に「コンピュータはソフトウエアがなければ只の箱」というのがあったが、実はAIについても同じで、世界トップの囲碁棋士にも打ち勝ったアルファ碁の場合も膨大な棋譜を人間の脳の仕組み(ニューラルネットワーク)を模したディープラーニングという手法で読み込み、驚異的な速さで膨大な回数の自己学習をしたから勝てたとのこと。つまり現在のAIが、AIの能力を発揮するためには膨大で多方面にわたるデータがリアルタイムに必要であり、それはまさにAIは元となるデータがなければただの赤ん坊の判断力と言うことになる。
 例えば、それはベテランの配車係が、天候や地理、お客様や乗務員の情報など、あらゆる状況を判断しながら配車指示をする方が、半端なAI配車などよりよほど効率的である所以である。
 しかし、だからAIなど意味が無い、ということにはならない。むしろAIが真にその能力を発揮できるデータの収集の仕組み=プラットフォームが確立されていないことこそ問題なのだ。
 静岡TaaSでは、まさにIoT(インターネット・オブ・シングズ=すべてのものがインターネットに接続されてネットワーク化される状態)による移動ビッグデータのリアルタイムな収集、気象情報、地域経済、地域コミュニティ、行政がもつオープンデータの収集という基本的枠組みをこの2年間で作り、そしてその後の3年間にあらゆるデータを蓄積し、AIが力を発揮し得るプラットフォームを作り上げたいと思う。
 静岡市という地域に特化していることが、その仕組みを低コストで短期間にかつ効果的に作り上げることに寄与するのではないかと考えている。そして、静岡TaaS設立に当たっての記念講演をしていただいた東京大学大学院准教授の伊藤先生を始め、日本における最先端のIT、AI関係者との連携を深め、AIの力を活用して、先に挙げたタクシー事業の異次元の飛躍に向けてチャレンジをしていきたいと思う。
 またしても誇大妄想気味の思いではあるが、まずは静岡市内のタクシー事業者の6割、600台のネットワーク構築のために努力して行きたい。
(2021年5月24日)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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